猪飼野詩集 金時鐘　レア物　

朝鮮人の原初の姿が残る町の暮しを「見えない町」等の連作詩で語る代表作．書下ろしの自著解題を収録．

猪飼野詩集 （岩波現代文庫　文芸　２３２） 金時鐘／著

見えない町
うた　ひとつ
うた　ふたつ
うた　またひとつ
寒ぼら
日日の深みで（１）
日日の深みで（２）
朝鮮辛報――この届くことのない対話――
朝鮮瓦報――この置き去られる遺産――
イカイノ　トケビ
日日の深みで（３）
果てる在日（１）
果てる在日（２）
果てる在日（３）
果てる在日（４）
果てる在日（５）
いぶる
夏がくる
影にかげる
それでも　その日が　すべての日
イルボン　サリ
夜
へだてる風景
朝までの貌

跋　言葉の元手（安岡章太郎）
あとがき
私と猪飼野と在日と、――本文庫版のあとがきに代えて――



大阪市生野区猪飼野――1973年、その町名が消えた朝鮮人集住地である。その集落での暮しを連作詩の形式で語り、「詩こそ人間を描くものだ」という作者の思いが見事に表現された代表作。巻末に書き下ろしの自著解題を収録。

■編集部からのメッセージ

在日朝鮮人の文学は、金達寿を先駆者として、多くの作品が生み出されてきましたが、そのうち、日本語で書かれた主な作品については、「〈在日〉文学全集」（全18巻、磯貝治良・黒古一夫編、勉誠出版、2006年）に集成されています。
　この膨大な全集を見ていくと、小説では金石範・李恢成・金鶴泳、詩では金時鐘が大きな成果を挙げていることは多くの人が認めるところでしょう。


猪飼野の歴史を語った本として、金賛汀『異邦人は君ヶ代丸に乗って――朝鮮人街猪飼野の形成史』（岩波新書）が今月復刊されましたので、併せて読んでいただけたらと願っています。





金時鐘(キム・シジョン)
1929年、朝鮮元山生まれ。詩人。1948年の済州島四・三事件を経て来日。1953年に詩誌『ヂンダレ』を創刊。日本語による詩作を中心に、批評などの執筆と講演活動を続ける。著書・共著書・訳書に『さらされるものとさらすもの』『なぜ書きつづけてきたか なぜ沈黙してきたか』『「在日」のはざまで』『わが生と詩』『再訳朝鮮詩集』 『尹東柱詩集空と風と星と詩』、詩集に『地平線』『新潟』『猪飼野詩集』『光州詩片』『原野の詩』『化石の夏』『境界の詩』『失くした季節』など。