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F2482 逸品【純金金瓶】徳力春荘作重量約800G「黄金の湯気、心のしずく」東大阪なにわ健康ランドランド湯ユートピア編

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F2482 逸品【純金金瓶】徳力春荘作重量約800G「黄金の湯気、心のしずく」東大阪なにわ健康ランドランド湯ユートピア編: 商品编号：v1185163759 【浏览原始网页】

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以下、所謂ブラクラ妄想ショートショートです〜〜

第一章：遺された輝きと翳り

埃っぽい書斎の奥、桐箱に収められていたのは、息を呑むような純金の金瓶だった。「F2482 逸品【純金金瓶】徳力春荘作」と記された札が添えられている。大手家電メーカーのエンジニアとして昼夜なく働いてきた健司（けんじ・45歳）が、先日亡くなった大叔父から相続した唯一の品だった。

金瓶は、満月のようにふくよかな胴体をしており、その表面は細かく槌（つち）で打ったような、ざらりとした独特の質感を持っている。しかし、ところどころに、まるで水墨画の滲みのように、滑らかに磨き上げられた、不定形な窪みが配置されていた。それはまるで、黄金の海に浮かぶ、光を湛えた島々のようだ。蓋の上には、繊細な透かし彫りが施された、蕾のような飾りがちょこんと乗っており、その技巧の高さが窺える。太く、しかし優美な曲線を描く持ち手は、本体とは異なる滑らかな仕上げで、全体の印象を引き締めている。

健司は、この金瓶をどう扱っていいか途方に暮れていた。価値はありそうだが、今の自分には不釣り合いな気がする。ここ数年、彼は原因不明の体調不良に悩まされていた。頭痛、倦怠感、そして何よりも、心が晴れない重苦しさ。医師は「ストレス性自律神経失調症」と診断し、休養と生活習慣の改善を勧めたが、仕事人間の健司にはそれが難しかった。

「こんなものより、健康が欲しいよ…」
思わずため息が漏れる。金瓶の冷たい輝きが、余計に自分の心身の不調を際立たせるようだった。

そんなある日、古い友人の達也（たつや）から連絡があった。達也はフリーのカメラマンで、健司とは大学時代からの付き合いだ。
「健司、最近どうだ？なんか顔色悪いって噂だぞ。一回、俺のホームグラウンドに付き合えよ。東大阪のユートピアっていうサウナなんだけど、マジで人生変わるぜ」
健康オタクでサウナ狂いの達也の誘いを、いつもは適当にあしらっていた健司だが、その日はなぜか断る気になれなかった。藁にもすがる思い、というやつかもしれない。

週末、健司は達也に連れられて、東大阪の「サウナ＆カプセルユートピア」の暖簾をくぐった。昭和レトロな雰囲気が漂うロビーを抜け、浴室へ。広々とした空間には、様々な種類の浴槽と、大きなサウナ室があった。
「まずは身体を清めて、湯船で温まってからだ」
達也に言われるがままに従う。そして、いよいよサウナ室へ。薄暗く、木の香りが充満する室内。温度計は90度を指している。じっと座っていると、全身から汗が噴き出してきた。

しばらくすると、スタッフが大きなうちわを持って入ってきた。
「アウフグース、始まります！」
その声とともに、熱したサウナストーンにアロマ水がかけられ、ジュワッという音と芳しい香りが立ち込める。そして、スタッフがリズミカルにうちわで熱波を送り始めた。これがアウフグースか。熱い！だが、不思議と不快ではない。むしろ、心地よい刺激だ。

アウフグースが最高潮に達したとき、スタッフが取り出したのは、巨大な送風機だった。
「これがユートピア名物、ブロアー『バズーカ』です！皆さん、しっかり掴まってください！」
轟音とともに、凄まじい熱風が健司の全身を襲う。まるで嵐の中にいるようだ。息もできないほどの熱さ。だが、その瞬間、健司の頭の中にあった仕事のプレッシャーや体調への不安が、すべて吹き飛んでいくような感覚があった。

水風呂に飛び込み、露天スペースの椅子で外気浴をする。心臓がドクドクと脈打ち、手足がジンジンと痺れる。しかし、頭は驚くほどスッキリしていた。
「どうだ、健司？これが『ととのう』ってやつだ」
達也がニヤリと笑う。健司は、まだ言葉にならない感動に包まれていた。

サウナの後、二人はユートピアの食堂へ向かった。達也が「ここの名物だ」と注文したのは、「ちりとり鍋」だった。ステンレス製の四角い浅鍋に、ホルモン、野菜、キムチが山盛りにされている。甘辛いタレが絡み合い、食欲をそそる香りが漂う。
「うまい…」
久しぶりに、心から「美味しい」と思える食事だった。汗をかいた後のビールも格別だ。

その夜、健司は久しぶりに深く眠ることができた。翌朝、目覚めると、身体の重さが少し軽減されているのを感じた。ふと、書斎の金瓶に目が留まる。昨日までは重荷にしか見えなかった金瓶が、今朝は少し違って見えた。表面の槌目模様が、まるでサウナストーンのように見え、滑らかな窪みは、水風呂の清冽さを思わせた。
「もしかしたら…」
健司は、この金瓶と、そしてユートピアのサウナが、自分の人生に何か新しい風を吹き込んでくれるかもしれない、そんな予感を抱き始めていた。

第二章：金瓶の秘密と動き出す人々

ユートピアでの体験以来、健司は週に一度、サウナに通うようになった。アウフグースの熱波とバズーカの爆風を浴び、水風呂でクールダウンし、外気浴で「ととのう」。このルーティンを繰り返すうちに、あれほど悩まされていた頭痛や倦怠感が、少しずつ薄らいでいくのを感じていた。

体調が上向くにつれ、健司は相続した純金金瓶について、もう少し詳しく調べてみようという気になった。インターネットで「徳力春荘作」と検索すると、徳力本店という老舗貴金属店の名と共に、いくつかの工芸品の情報が出てきた。春荘という名は、どうやら徳力家の代々の名工が襲名する号の一つらしい。この金瓶も、相当な技術を持つ職人が手掛けた逸品であることは間違いなさそうだった。

金瓶の表面を改めて撫でてみる。ざらりとした槌目（つちめ）の肌合いは、まるで生き物の皮膚のようだ。そして、そこに不規則に現れる滑らかな窪み。光の当たり方によって、その窪みは深く影を落としたり、逆に周囲の光を集めて白く輝いたりする。まるで、月のクレーターのようでもあり、静かな水面に落ちた雫の波紋のようでもある。蓋の上の透かし彫りの飾りは、よく見ると菊の花をモチーフにしているようだ。複雑な花弁が見事に表現されている。

「こんなものを作った人は、何を考えていたんだろう…」
健司は、金瓶の作者である「徳力春荘」という人物に興味を抱き始めた。

一方、健司が金瓶を相続したという話は、どこからか親戚筋に漏れていた。ある日、健司の元に一本の電話がかかってくる。声の主は、健司の母方の従兄にあたる、相良浩介（さがらこうすけ・52歳）だった。浩介は地方で小さな建設会社を経営しているが、ここ数年、経営状態が芳しくないという噂を耳にしていた。
「健司くん、久しぶりだね。大叔父さんの件、ご愁傷さま。ところで、例の金瓶のことなんだけどね…」
浩介は単刀直入だった。大叔父には生前、事業資金を何度か融通してもらっており、その形見分けとして金瓶を自分に譲ってほしい、というのだ。
「もちろん、ただとは言わない。それ相応のお礼はさせてもらうつもりだ」
その言葉には、どこか切羽詰まった響きがあった。健司は、浩介の申し出に困惑した。金瓶に特別な執着があるわけではないが、大叔父が自分に遺した唯一の品を手放すことには抵抗があった。

「少し、考えさせてください」
健司がそう答えると、浩介は不機嫌そうな声で電話を切った。この一件で、健司の心はまた少し曇ってしまった。

そんな健司の様子に気づいたのは、ユートピアで顔見知りになった常連客の一人、佐伯（さえき）という初老の男性だった。佐伯はいつも静かにサウナを楽しんでいるが、時折、健司に含蓄のある言葉をかけてくれる。
「何か悩み事かね、若いの。サウナに入って汗を流しても、心の汗までは流しきれんこともある」
健司は、思い切って金瓶のこと、そして浩介からの申し出について佐伯に話してみた。佐伯は黙って健司の話を聞き終えると、ゆっくりと口を開いた。
「金瓶ねぇ…そりゃあ、徳力さんのところの金瓶なら、ただの金塊以上の価値があるだろう。だが、物の価値ってのは、値段だけじゃ決まらんもんだよ」
佐伯は、自身も若い頃に骨董収集に凝った時期があったと語った。
「結局、物に振り回されちゃいかんのだ。物が人を選ぶのか、人が物を選ぶのか…どちらにしても、縁というものがある」

その夜、健司は再び金瓶を手に取った。佐伯の言葉が頭の中で反響する。「縁」。自分とこの金瓶の間には、どんな縁があるのだろうか。大叔父はなぜ、数いる親戚の中で、自分にこの金瓶を遺したのか。
金瓶の底には、小さな刻印があった。「徳力造」の三文字と、もう一つ、判読しづらい花押のような印。この印に何か意味があるのかもしれない。

数日後、健司は思い立って、徳力本店に電話をかけてみた。金瓶の写真と底の刻印の拓本を送れば、何か情報が得られるかもしれない。受付の女性は丁寧に応対してくれ、資料を送るように指示された。

そして、ユートピアの食堂。いつものようにちりとり鍋をつつきながら、健司は達也に浩介の話をした。
「うーん、金が絡むと人間関係ってややこしくなるよな。でも、健司がどうしたいか、だろ？その金瓶、お前にとってどういうもんなんだ？」
達也のストレートな問いに、健司はまだ明確な答えを持てなかった。ただ、手放したくないという気持ちが、以前よりも強くなっているのを感じていた。

その頃、浩介は焦りを募らせていた。健司が金瓶を簡単に手放さないと見て、別の手段を画策し始めていた。彼は、健司が知らない大叔父の「借金」をでっち上げ、それを盾に金瓶を差し押さえようという、悪質な計画を練り始めていたのだ。
黄金の輝きは、人々の心の奥底にある欲望を刺激し、静かに波紋を広げ始めていた。健司の健康はサウナによって回復しつつあったが、新たな人間関係のストレスが彼を待ち受けていた。

第三章：熱波師の眼差しと芽生える決意

徳力本店に資料を送ってから一週間ほど経った頃、健司の元に一通の封書が届いた。中には、金瓶に関する詳細な鑑定書と、一通の手紙が入っていた。鑑定書によれば、この金瓶は明治後期から大正初期にかけて活躍した、徳力春荘の三代目による作品で、当時の皇室への献上品として試作されたものの一つではないか、とのことだった。特に、表面の槌目と滑らかな窪みのコントラストは「月影手（つきかげで）」と呼ばれる珍しい技法で、現存するものは極めて少ないという。市場価値も健司の想像を遥かに超えるものだった。

手紙の差出人は、徳力本店の資料室長であり、金工作家の末裔でもあるという徳山と名乗る人物からだった。
「…この金瓶は、単なる美術品としての価値だけでなく、製作者の魂が込められた特別な品であると拝察いたします。もしよろしければ、一度お目にかかり、金瓶を拝見しつつ、詳しいお話ができれば幸いです…」
健司は、この手紙に心を動かされた。金瓶の背景にある物語を知りたい、そして、作者の「魂」とは何なのかを理解したいと思った。

その週末も、健司はユートピアを訪れた。サウナ室で汗を流していると、いつものようにアウフグースが始まった。今日の熱波師は、ユートピアのエース的存在である、通称「熱波師ジョー」こと、城之内（じょうのうち）だった。ジョーのアウフグースは、力強さとしなやかさを兼ね備え、まるで格闘技の演武を見ているかのようだ。彼の振るううちわから繰り出される熱波は、的確にサウナ客一人ひとりを捉え、心地よい蒸気と共に深いリラックスへと誘う。

そして、クライマックスのバズーカタイム。轟音と共に吹き荒れる熱風。健司は、その爆風の中で、なぜか徳山氏の手紙の言葉を思い出していた。「製作者の魂」。金瓶に込められた魂とは、これほどまでに強烈なものなのだろうか。それとも、もっと静かで、深いものなのだろうか。

サウナ後の外気浴中、健司はジョーに話しかけてみた。
「ジョーさんのアウフグース、いつもすごいですね。何か特別なことを意識してるんですか？」
ジョーは、汗を拭いながらニッと笑った。
「お客さんの表情、ですかね。熱いだけじゃダメなんですよ。その人が一番気持ちいいと感じる熱を、タイミングを見計らって送る。それだけです。まあ、言葉で言うほど簡単じゃないですけど」
その言葉は、健司の心に響いた。金瓶の作者もまた、それを使う人、見る人の心を想像しながら、槌を振るい、鏨（たがね）を走らせたのだろうか。

食堂で、ちりとり鍋を囲みながら、健司は達也に徳力本店からの連絡と、徳山氏に会ってみようと思うことを話した。
「そりゃいいじゃん！なんか、ワクワクする展開になってきたな。その徳山って人に会えば、金瓶の謎も解けるかもしれないぜ」
達也は自分のことのように興奮している。

しかし、健司の心には依然として従兄・浩介の影が差していた。浩介からの連絡は途絶えていたが、それが逆に不気味だった。何かを企んでいるのではないかという不安が拭えない。

そんな健司の葛藤を知ってか知らずか、ユートピアのサウナは、いつもと変わらず彼を包み込んだ。熱い蒸気、アロマの香り、水風呂の冷たさ、そして外気浴の解放感。それらは、健司の心身を浄化し、少しずつ強さを与えてくれていた。

数日後、健司は徳山氏に連絡を取り、会う約束を取り付けた。場所は、都内にある徳力本店の資料室。健司は、桐箱に収めた金瓶を慎重に抱え、新幹線に乗り込んだ。

一方、浩介は弁護士を立て、大叔父が生前に浩介の会社に対して負ったとされる「架空の債務」に関する書類を準備していた。彼は、健司が徳山氏と会うタイミングを狙って、内容証明郵便を送りつけ、金瓶の引き渡しを強硬に迫る計画だった。彼の目には、金瓶の芸術的価値など映っておらず、ただ金銭的価値と、それによって得られる会社再建の夢だけがあった。

健司が東京駅に降り立った頃、東大阪の健司のマンションの郵便受けには、浩介の弁護士からの威圧的な書面が投函されようとしていた。黄金の輝きが結ぶ縁と、欲望が引き起こす亀裂。物語は、新たな局面を迎えようとしていた。健司は、金瓶に込められた「魂」に触れることで、この困難を乗り越える力を得ることができるのだろうか。

第四章：月影の教えと決別

徳力本店の資料室は、静謐な空気に満ちていた。壁一面に並ぶ古書や資料、そしてガラスケースに収められた歴代の金工作品。その一室で、健司は徳山氏と向かい合っていた。徳山氏は五十代半ばほどの、穏やかながらも鋭い眼光を持つ人物だった。

健司が桐箱から金瓶を取り出すと、徳山氏はしばし無言で見入っていた。そして、白い手袋をはめた手でそっと金瓶に触れ、ゆっくりと回転させながら細部を観察した。
「…素晴らしい。まさに三代目春荘の『月影手』。実物を拝見できるとは、眼福です」
徳山氏は、金瓶の歴史的背景や製作技法について、健司に丁寧に説明してくれた。三代目春荘は、伝統的な技法を踏まえつつも、常に新しい表現を模索していた革新的な人物だったという。

「この『月影手』ですが」と徳山氏は、金瓶の表面の槌目と滑らかな窪みを指さした。「一般的に金製品は、その輝きを最大限に引き出すために、表面を均一に磨き上げることが多いのです。しかし春荘は、あえて槌目を残し、そこに月光が水面に映り込むような、あるいは雲間から覗く月のような、静かで深みのある美を表現しようとしました」
それは、派手な輝きではなく、陰影の中にこそ宿る美。健司は、その説明を聞きながら、ユートピアのサウナ室の薄暗い照明や、水風呂の静けさを思い出していた。派手さはないが、そこには確かな癒やしと安らぎがある。

「春荘は、この金瓶を『心を映す器』として捉えていたのかもしれません」と徳山氏は続けた。「見る人の心の状態によって、この輝きは様々に変化する。喜びの時には希望の光を、悲しみの時には慰めの影を映し出す…そんな器を目指したのではないでしょうか」
健司は、初めてこの金瓶を手にした時の自分の荒んだ心境と、サウナに通い始めて少しずつ前向きになってきた今の心境を重ね合わせた。確かに、金瓶の輝きは、今の方がより温かく、柔らかく感じられる。

徳山氏との会話を終え、健司が金瓶を手に資料室を出ようとした時、携帯電話が鳴った。達也からだった。
「健司、大変だ！お前のマンションに、弁護士名で内容証明が届いてるぞ！なんか金瓶を差し押さえるとか書いてある！」
達也は、健司が東京へ行っている間に、頼まれて郵便物を確認しに来てくれていたのだ。
健司の血の気が引いた。やはり浩介が動いたのだ。徳山氏との有意義な時間の余韻は吹き飛び、再び重苦しい現実がのしかかる。

その夜、東大阪に戻った健司は、達也と共に内容証明を読んだ。そこには、大叔父が浩介の会社に多額の借金をしていたこと、その返済が滞っているため、相続財産である金瓶を代物弁済として引き渡すよう求める旨が、法的措置を示唆する文言と共に記されていた。もちろん、そんな借金は事実無根だ。
「ひどいな、これ…健司、どうするんだ？」
達也が心配そうに顔を曇らせる。健司は、怒りと無力感で体が震えた。

翌日、健司はやつれた顔でユートピアのサウナ室にいた。熱い蒸気も、アロマの香りも、今は心を慰めてくれない。バズーカの爆風を浴びても、頭の中は浩介への怒りでいっぱいだった。
水風呂から上がり、露天スペースで項垂れていると、熱波師ジョーが声をかけてきた。
「健司さん、今日はいつもの元気がないですね。何かありましたか？」
健司は、ジョーの真っ直ぐな瞳を見て、思わず金瓶のこと、浩介の理不尽な要求のことをぽつりぽつりと話し始めた。ジョーは黙って聞き、そして力強く言った。
「それは許せないですね。でも、健司さん、逃げちゃダメですよ。大切なものを守るためには、戦わなきゃいけない時もある。俺たち熱波師も、最高の熱波を届けるために、毎日自分と戦ってますから」
ジョーの言葉は、まるでアウフグースの熱波のように、健司の心に直接届いた。そうだ、逃げていては何も変わらない。徳山氏が言っていた「心を映す器」。今の自分の心は、怒りと不安で曇っている。このままでは、金瓶の本当の輝きを見ることはできない。

健司は決意した。浩介と直接対峙し、この不当な要求を退けようと。幸い、徳山氏から紹介された、文化財関連に強い弁護士に相談するあてもあった。

数日後、健司は弁護士を伴い、浩介の会社事務所を訪れた。応接室で待つことしばし、現れた浩介は、健司の隣にいる弁護士の姿を見て一瞬顔をこわばらせたが、すぐに強気な態度を取り戻した。
「何のようだ。金瓶は持ってきてくれたんだろうな？」
健司は、震える声を抑え、毅然として言った。
「浩介さん、あなたの主張は事実無根です。大叔父にそのような借金はありません。この金瓶は、僕が正当に相続したものです。お渡しすることはできません」
浩介は激高し、罵声を浴びせたが、健司の弁護士が冷静に法的根拠の欠如を指摘し、虚偽の申し立てに対しては法的措置も辞さないと告げると、次第に言葉を失っていった。
結局、浩介は健司の金瓶を諦めざるを得なかった。彼の顔には、敗北感と、どこか救われたような複雑な表情が浮かんでいた。もしかしたら、彼自身も、この強引な計画の重圧に苦しんでいたのかもしれない。

帰り道、健司の足取りは軽かった。長年の懸案だった仕事のストレス、体調不良、そして今回の金瓶を巡る騒動。その全てが、ユートピアのサウナと、金瓶が結んでくれた縁によって、少しずつ解決の方向へ向かっているように感じられた。
書斎に戻り、改めて金瓶を手に取る。その輝きは、以前にも増して澄み渡り、力強く、そして優しく見えた。まるで、健司の心の成長を祝福しているかのように。
「ありがとう、春荘さん…」
健司は、金瓶にそっと語りかけた。

第五章：黄金の湯気に立ち昇る未来

浩介との一件が片付いてから数ヶ月が過ぎた。健司の体調はすっかり回復し、顔色も明るくなった。彼は、以前のハードワークを見直し、心と身体のバランスを大切にする生活を心がけるようになっていた。そして、週に一度のユートピア通いは欠かさない。アウフグースの熱波、バズーカの爆風、水風呂の冷涼感、そして外気浴での「ととのい」。それはもはや、彼の生活の一部であり、精神的な支柱となっていた。

純金金瓶は、今も健司の書斎に静かに鎮座している。しかし、その存在感は以前とは全く異なっていた。もはやそれは、扱いに困る高価な遺品ではなく、健司にとってかけがえのない宝物であり、人生の師のような存在となっていた。金瓶の槌目模様のざらつきと、月影手の滑らかな窪み。そのコントラストは、人生の厳しさと、その中に見出すことのできる穏やかさや美しさを象徴しているように思えた。蓋の上の精緻な菊の透かし彫りは、困難を乗り越えた先にある達成感や、細部に宿る美意識の大切さを教えてくれているようだった。

ある日、健司は達也を自宅に招いた。
「実はな、達也。この金瓶で、一度お茶を淹れてみたいんだ」
「え、マジで？純金で？贅沢だなぁ！」
達也は目を輝かせた。健司は、徳山氏から金瓶の手入れ方法と共に、古い文献にあった「金瓶で淹れる白湯は、心身を浄化し、気を高める」という記述を教えてもらっていた。

健司は丁寧に金瓶を洗い、清浄な水を満たした。そして、静かに火にかける。しばらくすると、金瓶の中からくぐもったような沸騰音が聞こえ始め、注ぎ口から柔らかな湯気が立ち昇った。その湯気は、まるで黄金色に輝いているかのように見えた。
用意した茶碗に、そっと湯を注ぐ。ただの白湯のはずなのに、どこかまろやかで、体にすっと染み渡るような感覚があった。
「うまい…なんか、すごいな、これ」
達也も感嘆の声を上げる。二人は、しばし言葉もなく、金瓶から立ち昇る黄金の湯気と、白湯の温かさを味わった。

「なあ、健司。お前、この金瓶、どうするつもりなんだ？売れば大金になるんだろうけど」
達也がふと尋ねた。
健司は微笑んで答えた。
「売るつもりはないよ。これは、僕にとってお金以上の価値があるものだから。徳山さんとも話してるんだけど、いつか、この金瓶の美しさや、それに込められた職人の想いを、もっと多くの人に知ってもらう機会を作れたらいいなと思ってるんだ。例えば、小さな展示会とか…」
「へえ、いいじゃないか！その時は、俺が最高の写真を撮ってやるよ！」
達也は力強く言った。

健司の心には、新たな目標が芽生えていた。金瓶を通して得た学びや感動を、誰かと分かち合いたい。それは、かつて仕事だけに追われていた頃の自分には考えられないことだった。

数週間後、ユートピアの食堂で、健司と達也はいつものようにちりとり鍋をつついていた。そこへ、熱波師ジョーと、顔なじみの常連客である佐伯も加わった。
「健司さん、最近すごくいい顔してますね」
ジョーが言うと、佐伯も頷いた。
「うむ。物の縁というのは不思議なものだな。金瓶が、お主を良き方向へ導いてくれたようだ」
健司は照れながらも、皆に感謝の言葉を述べた。
「ユートピアのサウナと、ここにいる皆さんのおかげですよ。それと、あの金瓶が、僕に色々なことを教えてくれました」

ちりとり鍋の湯気が立ち昇り、皆の笑顔を包み込む。その湯気は、健司にはまるで、あの純金金瓶から立ち昇った黄金の湯気のように見えた。それは、過去の苦労を溶かし、未来への希望を温かく照らし出す、優しい光のようだった。
健司は、この金瓶「F2482 逸品【純金金瓶】徳力春荘作」が、これからも自分の人生を豊かに照らし続けてくれることを確信していた。そして、いつかこの金瓶の物語が、誰かの心を温め、健康へと導く一助となる日が来るかもしれない。そんな未来を夢見ながら、健司は熱々のちりとり鍋を頬張り、サウナ仲間たちとの談笑に加わった。金瓶の底に刻まれた「徳力造」の印と春荘の名は、時を超えて受け継がれる職人の魂と、それによって繋がる人々の絆の証として、これからも輝き続けるだろう。

（了）