義太夫 越路大夫 寺子屋 未開封 菅原伝授手習鑑 四段目 文楽 浄瑠璃 竹本越路大夫 野沢喜左衛門 ステレオ 昭和44年9月初発売 ビクター邦楽名曲選

越路大夫の寺子屋です。近年の名人として余りにも有名な太夫さんで 平成元年に引退をされ 平成14年に亡くなられている訳ですが、引退後も没後も 評価と尊崇が続いており、比類ない芸力だったことが窺えます。なにぶん稀有な方だったと言えましょう。劇的表現や人物描写に優れ、語りは的確で繊細。風貌からも どこやら高徳な 博識な雰囲気が漂い、すべてが備わった方なのだろうと感じました。録音類も さぞ沢山残されているに違いないと想像し、このたび検索を試みたのですが…それが思いの外の少なさで 逆に驚かされました。同じく名人の清元志寿太夫さんに、モノ時代からステレオまで 再録音を含めたあらゆる“清元の名曲”の録音が残されているのとは対照的ですが、舞踊のための需要もある“清元”と 人形を伴った劇場公演を主眼とする“文楽”との 性格の違いによるものだろうと そこは理解が及びます。幸いな事に レーベル録音よりも NHKの劇場中継に沢山の記録が残されているらしく、この点は時代の恩恵だと感じました。

菅原伝授手習鑑 四段目 寺子屋 収録時間70分19秒 ステレオ ビクター録音 越路大夫 喜左衛門 初出昭和44年9月

現在は “ビクター邦楽名曲選”というシリーズ物の一枚ながら、元は単独のスタジオ録音だと考えられます。レコードの常として “録音日”も気になるところですが、ジャケットに日付が記されておりません。おそらく中にも記載はないでしょう。越路大夫襲名が昭和41年で、三味線の野沢喜左衛門の没年が昭和51年。その間10年の間で 昭和44年の発売日以前の録音…と言うのが大よその時期と考えられます。越路大夫の録音としては 現在もビクター音源とNHK音源を合わせた11枚組の大きなセットが販売されています。レーベル音源は そちらも初発売日が記されていて、“六段目”“壺阪”“袖萩”この“寺子屋” は 昭和43~44年に集中的に発売された事が分かります。襲名を機に 連続して幾枚かのレコードが企画された という事なのだと思います。この11枚の選集には、レコード録音は“初出日”が、NHK録音は“初放送日”が記されていて 面白いです。企業にとっては“発売”こそが 製品の“完成”なのであり、“録音”は過程の一段階に過ぎないことが 良く理解されます。

余談ですが… 越路大夫の“寺子屋”は、FMで放送された演奏を愛聴しておりました。昭和60年頃の たぶん“邦楽百番”だったと思いますが、40分番組で２週に分けて全曲が放送され、とても結構な内容でした。三味線は清治で もちろん “源蔵戻り”から。特に 源蔵と戸浪の場面の切迫感が素晴しく とても素敵でした。トントンと語られる… “タテコトバ”と言うのだそうですが、それで 場の空気と劇の緊張が グイグイと締め上げられていくのが眼前で、舌を巻いたことを思い出します。役者さんの芸談に “浄瑠璃物をお稽古すると、息の詰め方や 役による声の出どころの違いが良くわかる”という表現を見かけますが、素人の耳にも それが良く分かる浄瑠璃だと感じられました。

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